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かねてからKickstarterのようなクラウドファンディングについて疑問を呈していたのですが、今回ものすごく良い例が出てきたので少し論じてみたいと思います。最終的には我田引水になることをあらかじめ宣言しておきたいと思います。
冒頭のグラフィックスを見ていただくと、非常に美しい腕時計型の製品に誰もが見とれると思います。先週に日本でも有名ガジェットサイトが紹介したことでものすごく盛り上がりました。この製品はスマートウォッチ「Smile」という名前で、「なんでもできちゃう未来の腕時計」としてスマートフォンの代りにもなり、搭載されたセンサーで心拍数やカロリー消費の計算などもできてしまうという夢のようなデバイスです。こちらのページでビデオも公開されていますので、一度見てみると面白いと思います。こんな製品が出てきたら欲しくなりますよね。
このビデオを見て未来を夢見たり、Appleが作っているといわれているiWatchってこういうものかなと想像力を働かせるのは良いと思います。では、なにが問題か。
これがIndiegogoというKickstarterよりも前からあるクラウドファンディングにも登録されていて、ここで資金を募りつつ最終的に製品ができたら送りますというスタイルにしているのは問題だと思います。内蔵メモリーが128GBバージョンで480ドル(おおよそ50,000円)以上を支払うと、製品が完成したら送ってきてくれるというKickstarterと同じ仕組みです。ただし、KickstarterとIndiegogoには大きな違いがあり、ちょっと古いですが日本語のページだと下記で紹介されています。
Kickstarterだけじゃない!ファンドレイジングの民主化を目指す「IndieGoGo」 | greenz.jp グリーンズ
「Indiegogo」の基本的なコンセプトや仕組みは、Kickstarterによく似ていますが、両者で大きく異なる点は、調達した資金の配分方法。Kickstarterは、実際の寄付額が目標を達成しなければ、一切の資金を受け取ることはできない「All or Nothing」方式なのに対して、「Indiegogo」は、目標額は未達成でも、獲得できた資金分を受け取ることができるルールとなっています。
この記事が2011年のもので古く、それ以外に日本語のページが簡単に見つからなかったのでIndiegogoのウェブサイトを見てみました。
What if I don’t reach my funding goal?
If your campaign is set up as Flexible Funding, you will be able to keep the funds you raise, even if you don’t meet your goal. If your campaign is set up as Fixed Funding, all contributions will be returned to your funders if you do not meet your goal. Flexible Funding campaigns that meet their goal are only charged 4% as our platform fee, whereas campaigns that do not meet their goal are charged 9%.
簡単にいうと、この資金募集には2つのタイプがあってKickstarterのようにセットしたターゲットに到達しなかった場合にはお金が返される「Fixed Funding」と、ターゲットに到達しなかったとしても資金を受け取れる「Flexible Funding」という方法があります。運営のIndiegogoは後者の場合到達したら4%の手数料、しなかったら9%の手数料としています。
今回の「Smile」は赤い枠で囲んだように「Flexible Funding」となっていますので、この300,000ドル(おおよそ3,000万円)に到達しなかったとしても開発者にこの資金は支払われるわけです。現在(2013年7月13日)のところあと4日という期限を残して75,351ドル(おおよそ750万円)となっています。たとえばこのまま期限を迎えたとして運営のIndiegogoが9%を徴収するので70万円弱が引かれて680万円ほどがこの開発者に渡ることになります。それほど詳しく調べたわけではないですが、おそらくこんな仕組みのハズです。
では、その場合最終的に製品は出資者に届くでしょうか。絶対とは言いませんが、99.9%無いと言えます。自己資金があるかもしれませんが、それでもこれほどの機能の製品を作り上げられるとは思えません。普通に考えてハードウェアだけでなくソフトウェアも開発する場合、数千万円ではなく少なくとも数十億円は必要だと思います。Jawboneが画期的なUP by Jawboneのハードウェアを開発し、ソフトウェアやクラウドサービスも提供するのに数百億円のファンド(資金提供)が入っていることからも想像ができると思います。
つまり、たとえこの目標の3,000万円に達したとしても開発するにはまったく足りないわけです。しかし、それでも資金はこの会社に入りますし、製品がたとえできなくてもこの会社が責任を負う必要は無いのです。もちろん、社会的信用を無くしますのでその後にビジネスを継続できない可能性はありますが、それをも厭わない狙いだったとしたら…。
★
今回はほんの一例ですが、かねてよりKickstarterにしてもIndiegogoにしても、自分たちはアイディアを持っていてそれを自己資金が足りなくて大手投資家にプレゼンをして資金を出してもらうか諦めるかの2択だったところを、最終的なエンドユーザーにアピールして資金調達をして製品を完成させる、というこれまでにない新しいモデルはとても良いコンセプトだと思います。現実にうまくいったプロジェクトも多くあるでしょう。しかしながら、製品を思いついて美しい3Dグラフィックやプロモーションビデオを作れれば資金調達できるというようになってきてしまったのにはとても良くない傾向だと思います。前述のようにIndiegogoはターゲットにいかなかったとしても資金は調達できますし、Kickstarterでもターゲットに達すれば製品ができなくても補償はされません。あるレポートでは実に75%ほどが製品が完成せずに製品が発送されていないと書かれています(ただし「遅れ」であって中止ではない模様)。つまり、お金は集めたものの完成にこぎ着けないプロジェクトが山ほどあるわけです。
実はKickstarterはこのことをすでにわかっており、下記のような新しいルールを付け加えています。
Kickstarter Is Not a Store » The Kickstarter Blog — Kickstarter
– Product simulations are prohibited. Projects cannot simulate events to demonstrate what a product might do in the future. Products can only be shown performing actions that they’re able to perform in their current state of development.
– Product renderings are prohibited. Product images must be photos of the prototype as it currently exists.
製品のシミュレーションは禁止され、実際に開発中でも動作していることだけを見せることができるとされ、また基本的にレンダリングだけでは見せてはいけなくなり、プロトタイプなどすでに存在している写真だけを掲載するように求めています。つまり、グラフィック上のデザインだけでなく、ある程度開発は途中であることが求められているわけです。
このように自浄効果が出てきている部分もあるのですが、根本的に間違っている部分もあるのです。これがこのブログエントリーのタイトルでもあるのですが「お金があるだけでは製品はできない」ということです。
いくつかのプロジェクトはすでに製品開発として完成されており、他にも製品を作った経験があったり、販売を既にしている製品もある中で、ある製品だけがより資金が必要でそこを補うためのクラウドファンディングである場合には問題もありませんし、最高の資金調達方法だと思います。
しかし、デザイナーだったり企画者がパッと思いついたプロダクトデザインをカタチにするためにお金を集めるだけでは製品はできあがらないのです。そこに至るまでには果てしなく長い道と高い壁が立ちはだかっているからです。
製品のグラフィックができていて、お金があったとします。しかし、そこから実際に製品としてエンドユーザーに届くまでには、製品を工場で製造できる状態にしなければいけません。そこには金型製作できるデータ作成、データ検証、素材の選択、工場の選定、工場との契約、試作、金型製作、電化製品であれば回路設計や基板レイアウト、検証・解析、特許侵害していないかの調査、商標の取得、パッケージの製作、マニュアルの製作、最終的に販売するにはロジスティクスも手配する必要がありますし、カスタマーサポートも用意しなければなりません。このようになんの知識も無い人がアイディアを製品化するにはものすごく長いプロセスがあるわけです。
では、諦めるのが良いのか。いえ、そこを解決するためにQuirkyという仕組みがあるわけです(ここでようやく我田引水)。Quirkyでは、アイディアがあり、それがコミュニティで支持されれば、前述のような複雑怪奇な開発プロセスはすべて請け負ってくれます。グラフィックすらもQuirkyのデザイナーが描いてくれるので、本当に普通の人がアイディアを出せば良いだけなのです。そこにはスキルは必要ありません。毎日生活している日常で思いついたアイディアがあり、それを多くの人が支持してくれれば製品化され、そして最終的にそのアイディアが製品化されて販売されたら、その利益からお金が還元されるという仕組みです。
かなり長くなってしまいましたが、下記のビデオはQuirkyのコンセプトビデオに字幕を付けたので一度見ていただきたいです。Quirkyはよくクラウドファンディングと混同されますが、彼らが考えているのはもっと現実的です。そして、製品はどんどんできあがっているのです。Quirkyについてはこのカテゴリーも見ていただけると嬉しいです。
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このブログを書いたスタッフ
プレジデント
ほっしぃ
音楽からMacの道に入り、そのままApple周辺機器を販売する会社を起業。その後、オリジナルブランド「Simplism」や「NuAns」ブランドを立ち上げ、デザインプロダクトやデジタルガジェットなど「自分が欲しい格好良いもの」を求め続ける。最近は「24時間365日のウェアラブルデバイス|weara(ウェアラ)」に力を注いでいる。
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コメント
2016.04.20 18:49 #1159 omaruko
#1159への返信
2016.04.20 18:49 #1159 omaruko
Kickstarterを利用する場合、アメリカで会社を
設立し日本からの遠隔コントロールでも可能でしょうか。Indiegoはアメリカに会社を設立しなくても日本からの遠隔操作が可能みたいですね。
2016.04.25 00:34 #1160 ほっしぃ
#1160への返信
2016.04.25 00:34 #1160 ほっしぃ
コメントいただき、ありがとうございます。
アメリカに税金を支払うための会社があれば、日本からの遠隔コントロールも可能だと思われます。Indigogoはどのようにタックスを支払う仕組みなのでしょうか。私自身、そこまで細かいところは分かりません。
2016.04.25 18:27 #1161 omaruko
#1161への返信
2016.04.25 18:27 #1161 omaruko
ありがとうございました。
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