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- 2024年11月
Appleから突如リリースされたApp Storeのアップデートについてのニュース。元々、Epic gamesとの訴訟やSpotifyとの争いだったりとプラットフォーマーとしての姿勢を問われている部分があったので、何かしらの動きがあるかと思っていましたが、急にリリースが流れてきました。Appleのニュースリリースと合わせてAppleのことを誰よりもよく知っている人の1人である林信行氏による解説記事も一緒に読むとわかりやすいと思います。
App Storeの仕組みは大きく変わるのか。
2020年11月にAppleは「App Store Small Business Program」というものを発表しています。こちらは簡単にいえば、年間の収益が100万ドル(約1億円)以下の小規模な開発者は、App Storeの標準的な手数料である30%ではなく15%に減額するというものです。
米国のApp Storeで提供されているアプリの85%は無料アプリで関係ない。15%の有料アプリの開発者は2種類に分類される。1つは今回のキャメロン氏らのような年間売り上げが100万ドル以下の小規模開発者だ。
実はこれが15%の開発者の99%を占める。一方、2020年8月に人気ゲーム「Fortnite」を提供するEpic Gamesが同様に30%の手数料に異議を唱える訴訟を起こしたが、Epicのような年間売り上げが100万ドルを超える大規模開発者は15%中のさらに1%(全体の0.15%)となる。
前述の林信行氏の記事を引用させてもらうと、実はSmall Business Programだけでもほとんどのアプリ開発者は恩恵を受けているのです。ただ、今回のApp Storeのシステム変更により電子メールを使ってアプリユーザーにコンタクトをして別途料金を請求することができるようになるため、この15%すらもなくすことができるようになります。
アプリ開発者は手数料を免れる行動に出るか。
私は大手アプリ開発者は動く可能性はあると思っていますが、Small Business Programの対象になるような開発者は当面静観するものと思います。別の決済手段を用意すること自体はそんなに難しくないかもしれません。しかし、それには手数料がかかり、新たな開発がかかります。たとえばサブスクリプションのようなものだと、支払っている内容とアプリを紐付けておかなければならなかったり、アイテムを買うような行為もそれを外部で購入した直後からアプリ内で使えるようにするような開発が必要になります。
また電子メールを使ってユーザーに案内を出して購入プロセスに進ませるのはUXという面においてはかなり離脱を招いたり、カスタマーサポート費用の増大が見込まれます(いまだにメールが届かないとか、文字化けするということが多数発生するのがマスの世界です)。
ユーザー目線で考えても、App Store以外のところでの決済が正しくアプリ内に反映されるのかどうかや、フィッシング詐欺の懸念、手順の面倒臭さなども考えると、あんまり嬉しく感じない可能性があります。開発者が外部システムの手数料を支払い、開発費用も捻出した上で、現在Appleに支払っている15%分の手数料からいくらユーザーに価格を下げることでの恩恵をあたえることができるのかも疑問です。アプリ開発者だけが収益が増えるというのではユーザーの支持を得られないでしょう。
Appleはうまく批判を交わすために実質損害がない施策を行なったと言える。
上記のように考えると、実際にはほとんど影響がない内容なのではないかと思いますし、Appleの収益がこれで大幅に落ちることはないでしょう。しかし、それでもAppleにとっての大きな戦いであるEpic gamesなどとの訴訟においても、同じ判事が担当しているということから、Appleはプラットフォーマーとしての強い立場から強制しているわけではないという姿勢をアピールしているのだと思います。こういうところは、Appleのずる賢いというかスマートなところです。
Epic gamesとの戦いに負けてしまうと、App Storeでの収益を失う可能性もありますので、かなりの大打撃となります。
もちろん、良いこともあります。
App Storeの手数料については、実質的に変わらないとの見立てでいますが、それ以外に今回のニュースには良いことも含まれています。
App Store内での検索においてAppleを含む特定の開発者が有利にならないような客観的評価に基づいた仕組みを維持すること。価格帯もこれまでの大きな区切りでしか設定できなかった価格を細かく設定できるようになったこと。アプリのリジェクトに対する申し立てプロセスの継続や情報提供などがあります。
世界中の不満の声が、少しずつとはいえ、世の中を変えていくことができるのだと思います。
Appleの築いてきた基盤への対価は無くて良いのか。
現在、Appleは世界一の企業なのでプラットフォーマーとして批判にさらされる立場ではあると思います。実際に表に見えているAppleのイメージとは別に、深く関わってみると端々に強権的なところが見えるところもあるのは事実です。しかしながら、iOSやiPadOS、watchOSなどの基盤を作り、デバイスを普及させてアプリ開発者が良いものを作れば、それが収入として報われる基盤を築くのにどれだけの投資があったことか。ユーザーに対しても使いやすく、安心できるプラットフォームを無料で提供していくのはそれなりのコストがかかります。
Appleの収益が高いからといって、それを完全にスルーして1円も支払わないような仕組みにしてしまうのは本当に良いことなのでしょうか。アプリ開発のSDK周りの基盤整備やサポート、App Storeの運営、変なアプリが流通しないように審査をすることなども含めて膨大なコストはかかっていると思います。
プラットフォームを維持するために莫大な投資と努力の結果の上でアプリを作ってビジネスを進めるのですから、15%という手数料(実際は前述のように外部決済手数料や開発費用があるので差し引いた金額しか変わらない)はそんなに高すぎる料率だとは思いません。
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実際問題として、アプリの価格などでユーザーがものすごく高すぎると感じているのか疑問です。私自身、さまざまなアプリを購入してきました。できる限りアプリ開発者の収入になる方が良いと思いますし、無料アプリの広告解除に対する費用は見た目を良くするために九分九厘課金をしています。その中で、数百円の場合がほとんどですし、特に高いと感じることはほとんどありません。
よっぽど信頼できてかつUXとして優れている外部決済サービスができない限りは、App Store内での決済を選ぶと思いますし、そういうユーザーの方が圧倒的に多いのではないかと推測しています。
【追記:2021.9.4】
その後、Appleはもうひとつのリリースを出しました。こちらは日本の公正取引委員会との合意により、「リーダーアプリ」においてはApp Store内ではなく外部のサイトで決済してアプリ内で読むということを認めるという大きな転換です。こちらはたとえばKindleアプリがアプリ内で本を購入できるリンクを提供して、ユーザーはシームレスに購入ができるようになる模様です。ここら辺はこれまでもアプリ内で購入はできていなかったので、ユーザーにとっては使い勝手が良くなり、Appleも元々収益になっていなかったので大きな影響がないということで譲歩したのだろうと思います。
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このブログを書いたスタッフ
プレジデント
ほっしぃ
音楽からMacの道に入り、そのままApple周辺機器を販売する会社を起業。その後、オリジナルブランド「Simplism」や「NuAns」ブランドを立ち上げ、デザインプロダクトやデジタルガジェットなど「自分が欲しい格好良いもの」を求め続ける。最近は「24時間365日のウェアラブルデバイス|weara(ウェアラ)」に力を注いでいる。
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