Appleが諦めたAirPowerは、ワイヤレス時代を豊かにするはずのものだった

2019.04.07

私も長くAppleを見てきていて、倒産寸前と言われた頃からスティーブ・ジョブズが戻ってきて奇跡の復活を遂げ、iMac、iPod、そしてiPhoneやiPadなどの復活劇を身近で感じてきました。そして、iPhone 8やiPhone Xの発表の時に、ワイヤレス充電を発表した際、これらを生かすも殺すもAirPower次第だなと感じました。しかし、Appleの歴史上でも数少ない失敗に終わりました。

知っている人も多いと思いますが、iPhone 8/8 PlusやiPhone Xから採用されたワイヤレス充電の規格「Qi(チー)」は、Appleはまるで新しい技術かのように宣伝していますが、実際にはかなり前から使われている技術で、一時期はNTTドコモのスマートフォンは軒並みQi充電システムが搭載され(おそらく要求仕様だった)、空港ラウンジなどたくさんの場所に充電器が設置されたこともありました。

しかし、ある時を境に、NTTドコモは一気にトーンダウンして同社スマートフォンへの搭載を止めるようになりました。これは、ある意味でこのワイヤレス充電の仕組みが普及しないと判断されたともいえます。Qi規格の充電においては、普及を妨げるいくつかの問題がありました。

充電器とスマートフォンを、ケーブルを挿さなくても充電できるワイヤレス充電は、この言葉だけで受ける印象と実際のQi充電ではかなりかけ離れています。私が考える3つの問題は下記の通りです。

  • 充電可能な設置位置がかなり限られる
  • 充電が遅い
  • 複数台充電できない

充電可能な設置位置がかなり限られる

基本的なQi充電の仕組みは、充電台の下にコイルが設置され、スマートフォン側にもコイルが埋め込まれ、充電側に電流を流して磁力を発生させ、スマートフォン側に電力が発生するという電磁誘導という仕組みを利用したものです。この最大の欠点が、前述の2つのコイルが近くに、かつできる限り中心点を合わせることが必要なことです。ケーブルを接続しなくても、置くだけで充電できるといううたい文句を信じて充電器に置いたものの、充電されていなくて困ったということが起きてしまうのです。

一般的な充電器で考えると、中心位置から1cmほどずれてしまうと充電されなくなってしまいます。また、少し厚めのケースを装着していると充電自体できなかったり、もしくは充電性能が落ちてしまいます。このように、かなりシビアな位置合わせを要求されるので、Qi充電器に気軽に置いておくだけという訳にはいかないのです。

充電が遅い

元々は5Wという低電力向けであり、その後拡張されて10W、15Wと増えてきましたが、iPhoneはなぜか7.5Wという中途半端な仕様になっています。5Wといえば、iPhoneに付属する純正充電器と同じです。だから、それくらいならば良いのではないかと思われるかもしれませんが、実際には直接的にケーブルが接続されているわけではないので、ロスが発生するのでそのままの電流を流せるわけではありません。また、コイル同士の距離や、前述のような位置によってもロスが発生します。

実際に使ってみると分かりますが、本当に充電スピードは遅いです。私は、iPhone XS MaxとPixel 3を持っていて、それぞれをワイヤレス充電にしています。前者はApple Storeで販売しているLogicoolのもの、後者はPixel StandというGoogle純正Qi充電器です。

それなのに、前者は3時間くらい経ってようやく満充電が見えてくるくらいで、普段USB PD 18Wの充電器で充電していると1時間強で満充電が見えてくるので、段違いの差があります。後者も1時間経っても充電は終わらず、2時間経ってようやく満充電が見えてきます。こちらの方が若干早いですが、それにしてもケーブルで充電した方が圧倒的に早いことには変わりがありません。私も、そろそろNuAns COLONYに変えて、全部ケーブルでの充電に戻そうと思っています。

複数台充電ができない

AirPowerが出てくる前には、Qi充電器は1台につき1台のデバイスを充電するものでした。しかし、これだと複数台充電したいときには複数台用意する必要がありました。特にその頃のQi充電器は平面でデバイスを寝かせて充電するものばかりだったので、場所を多く占有してしまうものばかりでした。そして、それぞれの充電器に対して、1本ずつ給電のためのケーブル、そしてACアダプターが必要だったので、デスクの上がとても乱雑になってしまうという問題がありました。

それらの問題点はAppleも認識していたのでしょう。iPhone 8/8 PlusとiPhone Xでワイヤレス充電に参入する際に、これらの問題を解決するAirPowerを用意したのだと思います。このAirPowerが前述の3つの問題点を解決してくれる救世主でした。しかしながら、私が知る限りAppleが発表会で大々的に発表し、ウェブページも公開した製品では唯一、後にキャンセルが発表されました。

Appleからの声明は「努力の末、AirPowerは我々の高い要求水準を満たすことはできないと結論を下し、プロジェクトを中止しました。本製品の発売を楽しみにしているお客様にはお詫び申し上げます。」というものでした。私は最初はかなり後発の参入だったので特許関係の問題なのかと思っていましたが、「高い要求水準」が何だったのかは定かではありませんが、Appleによる技術的な問題だったようです。

こう決まってしまったので、後からどうのこうの言っても仕方がありませんが、Appleのワイヤレス充電の戦略が見直される必要性が出てきたことには間違いありません。私はLightning端子はUSB Type-Cに変わるのではなく、ワイヤレス充電に置き換わるものだと思っていましたので、これも先に伸びたと考えて良いと思います。

今後は、サードパーティーがどのような製品を出してくるかが見ものですね。すでにクラウドファンディングなどでは、iPhone、Apple Watch、AirPodsが充電できて、かつ角度も付けられる製品が出てきています。角度が付けられるのは素晴らしいと思いますので、是非とも製品化されて世の中に出てきて欲しいですが、Appleの技術力を持ってしても品質基準を満たせなかったという技術的な問題(おそらく高周波ノイズあたり)をちゃんとクリアできるのかどうかがポイントだと思います。

このブログを書いたスタッフ

プレジデント

ほっしぃ

音楽からMacの道に入り、そのままApple周辺機器を販売する会社を起業。その後、オリジナルブランド「Simplism」や「NuAns」ブランドを立ち上げ、デザインプロダクトやデジタルガジェットなど「自分が欲しい格好良いもの」を求め続ける。最近は「24時間365日のウェアラブルデバイス|weara(ウェアラ)」に力を注いでいる。

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